犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

デカレンジャーにおける夢魔考

 学校の清掃用具入れから遺書と共にクラスメイトの死体が発見される夢。飼っていたモルモットを誤って足の裏で踏みつけて殺してしまう夢。白米を食べるたび歯がボロボロと抜け落ちる夢。無数のカエルが上空より落下してきてアスファルトに叩きつけられ濁音を残してひしゃげ、その真っ直中で途方に暮れる自分……。
 
 悪夢はいつも個人限定のリアリティを帯びている。他人の夢がつまらないのは支離滅裂だからだと語ったのはたしかバロウズだったろうか、ケルアックだったろうか。
 
 お子さま向け特撮番組にして、やがてオトナになりゆく次世代のコドモたちに奇妙千万なるフェティシズムとトラウマを刻み続ける『特捜戦隊デカレンジャー』。各所で話題沸騰のEpisode.39「レクイエム・ワールド」は中でも特殊性の際立つ奇怪な作品だった。白黒時代の『ウルトラQ』だとか『世にも奇妙な物語』だとか伊集院光の深夜ラジオでオンエアされた『デビッド・リンチ占い』だとか眉村卓の短編SFを彷彿させる奇妙に歪んで時空の捻れた狂い方である。
 
 ヒロインの梅子はデカベースの司令所で仲間たちの殺戮死体を目の当たりにし、突如として背後からサディスティックな異星人に巨大なハサミを突きつけられて絶命の危機にさらされる。辛うじて攻撃をかわして敵を追撃するためダストシュートに飛び込めば、一瞬にして視界は泡立ち、ふと気づくとバスルームで居眠りしていた自分に気づく。着替えてデカベースに戻るといつもの顔ぶれ。悪い夢を見たのだと笑顔でみんなに話す梅子。
 
「アリエナイザーに侵入されてみんながやられちゃう夢なの」
「どんなアリエナイザーだった?」
「うーんとねえ……」
「こーんな顔でしょ?」
 
 振り向くジャスミンの顔が般若の形相に変貌する。
 そして牙を剥く仲間たちに襲われデカレンジャーに変身するためのSPライセンスを奪われてしまう。敵を追いながらビル街に迷い込む梅子は、横断歩道の真ん中で錫杖を響かせながら大挙する僧侶の群れに囲まれ、崩れたアスファルトの暗闇に真っ逆さま。着衣のままバスルームに不時着し、湯船に浮かんだアヒルのオモチャを手にとれば炎をあげて爆発する。再び目覚めるとテディベアの密集したコドモ部屋。
 
「やっぱり、夢? だけど私の部屋じゃない……」
 
 そこで動き出す巨大なぬいぐるみたちの追撃。「いい加減にして!」と絶叫をあげると、周囲はバスの車内。周囲の乗客は人差し指を立ててしかめ面をする。気まずくなって着席すると、背後の男が白マスクをかぶった怪人に変貌し、首を絞めてくる。反撃してバスから飛び降りると、着地した先はゴミ捨て場のポリ袋のクッションの上。したたかに額を打ち付け、おさえる右手。その右手の小指にかすかに残る感触……。何かを思い出さなければならないのだが、思い出せない葛藤。路地裏に貼られたポスターの文字にそのヒントを見つけ出し、立ち上がろうとしたその瞬間、梅子は大量のゴミの山から突きだした腕に捕まれ、さらなる悪夢の深淵へと誘われる。
 
 そして自分自身のドッペルゲンガーであるデカピンクとの対決……

 この後、前半部分とは全く異なるカタルシスが訪れるのだが、今回見逃してしまった愚民どもは慚愧の念に苦しみながら、DVD化を心待ちにするが良い。