犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

オカルト作法

 
幼い頃、存在しないものを空想するのはとてもロマンティックだと思っていた。
空を飛ぶ獣や魔法、そして妖精。ファンタジーのキラキラ輝く粉末に彩られた夢。
しかし本当は、人は在りもしないモノに怯え、それに金を払い、心もカラダも身動きできないほどに拘束される。
 
オカルトの本質は「納得できてしまう」ことにある。
本当に正しいことよりも、心情的に信頼おけたり、納得できたり、辻褄があってしまうことこそ恐ろしい。
水にモーツァルトを聴かせると結晶が美しくなるだとか、牛に聴かせると肉がおいしくなるだとか、さもありなんという説得力が疑似科学を生む。疑似科学は心情的に「有り得そうだ」という心の隙を突いてくる。

バブル期のことだったろうか、欧米では「心から何かを信仰していない人間は信用されない」と言われ続けた。
しかし本当は、何かを信じて疑わない心こそ疑わしい。
ネットやブログでは「思考停止」を非難されるが、実は愚か者がどんなに自分のアタマを使って考えようと、結局無惨な結末しか待っていない。しかし、「それはあなたのくだした決断だから」「それが自己責任だから」と論理をすり替えられる。
 
人は自分が間違っていたなどと思いたくない。
だから一度納得してしまったものを打ち消すのは困難だ。
 
あらゆるベストセラーは読者を否定しない。
自分がいかに正しいか、確信を抱かせる。
電波男はオタクを正当化し、格差社会は不幸を社会システムの歪みのせいにする。
左翼はあなたの不幸はどこか高みでほくそ笑んでいる権力者が悪いのだと慰める。
右翼はあなたの血筋は絶対的に正しい、だからあなた自身も正しいのだと根拠を与える。
宗教は結局汚い方法で金儲けする政治家や実業家の免罪符でしかない。
あるいは貧乏人が貧乏でありつづけるための言い訳か……
 
最大ボリューム層に訴えかけることの出来る斬新なネタで、
あたらしい論法で「あなたは悪くない」と説得力のある本を書けば、
きっとその本はそこそこ売れるに違いない。
いつも捕らぬ狸の皮算用をしながら日が暮れる。