犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

正論は不条理に太刀打ちできない

 職場の親しい同僚があまりに薦めるので、江原啓之という人物の本をパラパラと何冊か立ち読みした。冗談ではなく、久々に本屋でズッコケた。
 内容はといえば、「ハーブを浮かべたお風呂に入ると除霊されるのでリラックスできる」とか、「野菜サラダを食べると霊的バリアが張り巡らされて健康になる」だとか、そんなのばっかり。
 いや、べつに除霊されなくても風呂に入ればリラックスするし、野菜を食べればそりゃ健康になるよなぁ……。ある意味、おもしろすぎる。おもわず買って帰ろうかと思ったが、今月はマンガとお菓子とオモチャを買いすぎたのでやめておいた。
 
 江原啓之って人は女性雑誌に連載をもってるスピリチュアル界のカリスマらしい。スピリチュアルという言葉にはいまだに正確な日本語訳が用意されてはいないらしく、仮に「霊的」という語が当てはめられているのだが、べつに幽霊だとかUFOだとかいうオカルト話とも微妙に違うらしい。でも江原さんは「除霊」とか「お祓い」とか「あの世」とか言ってるし、それって「大霊界」とか「あなたの知らない世界」の仲間っぽい気もする。
 どうやら彼は目に見えない何かを仮に「霊」という言葉であらわしているようだ。
 
 彼がスピリチュアル研究の起源として解説するフォックス姉妹の降霊術というのは、すでにそのトリックが解明されていてペテンであったことが立証されている。わざわざオカルトマニアなら誰でも知っているベタなエピソードを持ち出してウソの上塗りをするところを見ると、何かの方便として確信犯的に「霊」という言葉を用いているのだろう。
 
 とりあえず大雑把に立ち読みしたところ、彼の本には何一つ間違ったことが書いてない。という結論に達した。実はこういうツッコミどころのない宗教まがいのモノほど扱いに困る。
 オウム真理教は間違っているけれど、もっと正しい宗教は他に存在するみたいな言説というのも僕はいかがなものかと思う。もともと政治というのは宗教が権力を掌握するための手段の一部で、宗教というのは詐術(ペテン)の一部でしかない。誤解を怖れずに断言してしまえば、結婚詐欺も宗教も占いも超魔術も同源で同一線上に並ぶ親戚同士みたいなものだ。政治家がどうしてあんなに厚顔無恥なのかといえば、そういった詐術のトリックがわかった上で国民を騙そうとしているからに過ぎない。そう考えれば政治家と宗教の仲がいいのも仕方のない話だし、国民は彼らのシェア争いというゲームに乗せられているだけ。
 
 風呂に入るのも野菜を食べるのも、人間として正しい。霊とかバリアって言葉がちょっと変だけど、それを真に受けた読者が結果的に風呂入って野菜を食べるなら、少なくとも悪いことではない。理解力ゼロの愚か者にどんな説教をしたところでこっちが疲れるだけなのだ。
 だったら、どんなに間違った言葉を使ってでも最終的には正しい行動に導くことができるなら、そっちの方がよっぽど有意義なのかも知れない。まあ、その点に関しては江原啓之という人物もその著書も、無害でむしろ有益だろう思う。だけど江原啓之自身には全くもって非はないとしても、霊がどーの、バリアがどーの言われなきゃロクに風呂にも入らず野菜も食わない人間が存在するのだろうか…