犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

英霊を肴に「憂国」という名の美酒に酔う

 8月15日ということで、ミーハー的にコスガ・デスガ君&平民金子氏と突撃参拝してきた。まあ、世の中には参拝すると目くじら立てる人もいるけれど、あれは英霊フェスタみたいなものだと思っている。行ったことない人は厳かで大層なものと勘違いしてしまうけど、政治家も含めて大騒ぎしてるヤツらこそお祭り気分で不謹慎なことやりたい放題なのだから。
 
 明らかに軍隊経験のない爺さんとかが軍服着て若いコスプレイヤー引き連れて行進してたり、ヤンキー右翼が集会開いてたり、芸能人や政治家がパフォーマンスとしてやってきたり。国立の慰霊施設を作って英霊をそこに移すなんて形骸化もはなはだしいという意見もあるけど、今の靖国神社がすでに形骸化してるんだからどっちもどっちだろう。まあ、あれを韓国・中国に見せたところで納得はしないんだろうけど。
 
 本当に老若男女、ヤンキー・オタク・サブカル・右翼・左翼みたいなイデオロギーの違う人種まで一同に介してのお祭り騒ぎしてるんだから、面白くないはずがない。巫女さんもいるし、セーラー服の女子高生とか右翼の特攻服着たヤンキー系のお姉さん(ツンデレ?)もいるし、「萌え」要素だって満載。足りないのはゴスロリくらい。今じゃ愛国系のバンドとかあるんだから、バンギャも参拝すればいいのにと思う。おまけに、こんだけ混沌としてるのに、「慰霊」という家族連れでも安心してこれるだけの大義名分もあるし、レジャーとしては最強だ。
 
 終戦60年ということで大鳥居を抜けたあたりに巨大テントが張ってあってステージが特設されていた。「青少年から英霊への感謝の言葉」という発表の時間、海外に留学しているという女子大生の演説があまりに可愛かったので、彼女がステージから降りてきたあと、しばらく尾行してたら学生の団体に向かってビデオカメラを片手に撮影している外人が「日本人はアジアで何万人殺したか知ってるか?」と、絡み始めた。発表を終えたあとの中学生くらいの男子が「じゃあ、アメリカはインディアンを何人殺したかあなたは知ってますか?」とカウンターで返してた。しかもそのあと、右翼にもからんだらしく、乱闘寸前になっていた。さらに後半の歌の時間、女性歌手が特攻隊の遺書を暗唱した後に歌うっていうのをやってて、それがいかにも「お涙ちょうだい」的な演出過剰で逆に痺れた。非常にベタでその低俗さは月蝕歌劇団に勝るとも劣らないクオリティだった。
 
 毎年恒例、英霊にこたえる会や、コスプレ爺さんたちも健在だった。だいたいいつものメンバーが揃っていたので安心した。ハモニカの音色をBGMにランニング姿の爺さんが怪気炎をあげて演説していたのも情熱的で良かった。
 
「英霊のみなさん、こんな国になってしまいました……申し訳ない。この国ではもう『海ゆかば』を歌うこともできない! ん? なんだ君たちは! なんで笑ってる!? 笑うな! 笑うんじゃない! 泣け! 泣くんだ! 笑うヤツは出てけ!」
 
 2礼2拍1礼で社殿に参拝したところで仕事が控えているというコスガ君と別れ、平民太と昼飯を食べに神保町方面に歩いていると、脇の道から「戦争を美化する靖国神社」だの「小泉首相参拝反対」だの、お決まりのシュプレッヒコールが聞こえてきた。左翼のデモというのはきちんと警察に申請してやっているから、靖国神社周辺でやる時もちゃんとルールが決まっているらしい。警察に囲まれながらのデモ行進というのも迫力がない。
 
 そんなシュプレッヒコールに向かって、背後から何か叫ぶ声。どうもおばちゃんの声に聞こえた。支持者の声援かと思って振り返ると、オウムのギーちゃんだった。周囲に電波ビラよろしく張り巡らされた紙を読む限り、九段下の歯科院のマスコットキャラクターで、ひっきりなしに地元住民が挨拶していく様を見ると、きっと近所では人気者なんだろう。そのギーちゃんが左翼の声に反応して挨拶しているだけだった。他の歩行者はみんな無反応。ちょっと左翼が哀れに見えた。
 その左翼のデモについてしばらく歩いていると、背後から爆音で軍歌が流れてきた。振り返ると、ウルトラ警備隊よろしく屋根にミサイルとパトランプを装備した街宣カーが近づいてくる。だいたいこういうのは警察の交通誘導によって別の道にまわされるので、まさかこっちには来ないだろうと傍観していると、なんとどんどん近づいてくる。交差点で機動隊の制止をふりきり、特攻してきたらしい。そして神保町駅前の交差点で、左翼と警察の攻防が勃発。当初、警官の交通誘導に従って右折するかに見えた街宣カーだったが、曲がると見せかけて急遽ハンドルを左に切るという荒技を披露。ヘビのようにうねりながら警官隊の障壁に突っ込む。しかし寸前のところで食い止められてしまう。前方には左翼のデモ、それを守るように背後を固める警察のパトカーや護送車。街宣カーの脇腹には「高橋戦闘隊」と刻み込まれている。普通の右翼団体ならここまでやったらとりあえず引きそうなもの。おそらくスタイルに憧れて地方の不良が入団してしまったようなヤンキー右翼のあつまりらしく、ほとんど暴走族と変わらない。スピーカーから流れる演説も、理論的にはやや弱い。しかし、その暴走スタイルはカッコ良すぎる。再び警察に誘導されるままUターンするかに見せて、さらにUターンに継ぐUターンで交差点をグルグル回り始める。一般車両にとっては迷惑きわまりないのだが、そんなことを2,3度繰り返して罵声を上げながら高橋戦闘隊は去っていった。最後に左翼に向かって叫んだ「お前たちの言ってるセカイは物語なんだよ!」っていう台詞はなんかツボだった。 まあ、骨があると言えば骨がある。でも、警察が手を出さないのわかってるからやってるんだろうという甘えもちょっとある。それは右翼も左翼も変わらない。
 
 そういえば、もちろん今年も鳥肌実は姿を現した。なにやら色々と演説をしてたけれど、恐くてココには書けない内容ばかりだった。
 参拝してた右翼が8月15日は「終戦記念日」じゃなくて「敗戦屈辱の日」であるみたいな事を言ってた。そういう言い換えはアリだと思う。アメリカの原爆投下を「広島大虐殺」などとは口かが裂けても公共の電波で言わないんだから、せめて靖国の境内くらいでは言わせてあげていいんじゃないかと……。
 その同じ右翼が、神道祝詞や仏教のお経もいいけれど英霊には「海ゆかば」と教育勅語こそ追悼になるのだと言って大声で歌っていた。なんかもう、神道とか無関係にどんどん宗教儀式が捏造されていくさまはすごい。本当はいかに宗教がラジカルで流動的か、宗教儀式と信仰心はいかに無関係かの象徴だと思う。
 
 8月15日の靖国神社というのは同時多発的に随所で突発的にイベントが発生するので、ただ単純に参拝するだけじゃ充分に楽しめないところがある。騒ぎに聞き耳をたてつつ、どこかで気配を察知したら走っていって参加するくらいの意気込みがないと、「変な人がいっぱいいたね」で終わってしまう。ここはひとつ、身軽な格好で気心の知れた友人と行くことをオススメしたい。来年あたり、ヒマな人は行ってみるといいですよ。もちろん、英霊に対する敬意や感謝の気持ちみたいなのも多少は手みやげ程度に持ちつつ……