犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

マンガ原作者になる方法

 
 いや、それにしもてジャンプで連載している『バクマン。』の影響なのか、にわかにマンガ原作にスポットが当たってきているような気がする今日この頃。
 マンガ原作バブルというか、原作者志願の若者を食い物にするビジネスとか、これから出てくんじゃないのかと思う。ケータイ小説ブームが実質、出版社をはじめとするメディアにとってはコンテンツを入手するためのコスト削減であったように。
 
 mixiにも原作者志望とマンガ家志望をマッチングするようなコミュが盛んだったりするし、「マンガは描けないけど原作なら…」という野心を燃やす子供たちも急増中な気がする。
 それどころか、「小説は書けないけどマンガ原作なら…」とか、もっとひどいのになると「文章は得意じゃないけどマンガ原作なら…」という人まで。
 たしかに気持ちはわかる。
 
 でも、まだ駆け出しのマンガ原作者として一言いわせて貰うと、志望者と現実にマンガ原作でお金貰ってる人の間には暗くて深い溝がある。
 目指すところが違う、方向性が違う、着眼点が違いすぎる。
 
■少年ジャンプ - ストキン炎・募集要項
http://shonenjump.com/j/manga-shou/story.html
 
 今はもう消されて見ることができないけど、「ストキン炎」の第4回佳作受賞作『神様先生』なんかがマンガ原作のお手本としては最良だと思う。
 ジャンプはシナリオ形式ではなくネーム形式なので、他の雑誌より敷居が高いけど、原作者には何が求められているのかというのはあまり変わらないはず。
 
 おそらくマンガ原作者志望の子は「オレ、いいストーリー思いついちゃった!」的な発想で胸をときめかせているんだろうけど、実はマンガ原作者に求められるのは「ストーリー」よりも「情報」だと思う。
 『神様先生』の場合、評価されたのはきっと剣道や長刀に関する知識と理解度であって、ストーリーは二の次だったはず。
 だって正直、ストーリーだけなら及第点といったデキだから。
 ただ、「知識」にプラスして「説得力」があった。そこが読者を魅きつけるフックだと思う。
 
 編集者、漫画家、読者がまだ持っていない情報を織り込んだ上で、物語を構築できるというのが原作者に求められる能力であって、一言でいってしまえばそれは「情報処理能力」。
 だから原作モノは「歴史」「料理」「ミステリー」「職業モノ」が多い。
 
 意外と「萌えマンガ」に原作者が多いのは、それがもはや創作というよりは「知識」と「情報」の蓄積に他ならないから。だから「ミステリー」に近いのかも知れない。
 
■E-Pin企画ミステリーナイト
http://www.epin.co.jp/
 
 上記は、ホテルで開催される「ミステリーナイト」の企画団体。ミステリーというジャンルは古典的パターンを網羅した上で、アレンジがモノを言うから、原作者を必要とするのだろう。
 

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 はじめから大場つぐみを目指すのは大間違い。
 ストーリーの奇抜さに目がくらんで「オレもデスノートみたいのが書きたい!」とか思ってしまいがちだけど、大場つぐみの凄さはネーム段階での演出力と、小畑健を巧く使いこなすドライビング・テクニックのような部分にある。
 大場つぐみになりたいなら、『バクマン』の主人公たちと全く同じようにやらなければならない。
 その代わり人生を投げ打って、ジャンプでしか通用しないイチかバチかの大博打を強要される。
 
 だけどジャンプを目指すならともかく、もっと手っ取り早く原作者になるなら方法はいくらでもある。
 それこそコンビニ本の世界は意外と間口が広かったりする。
 ぶっちゃけ、ネタに困った編集者と、仕事にあぶれた漫画家が優秀なマンガ原作者に飢えているという状態かも知れない。
(まあ、コンビニにおける書籍スペースの減少で、この状況もいつ消えてなくなるかわかったものではないけれど)
 
 マンガ原作者を目指すなら、第一に「情報収集」を怠らないこと。
 本を読んだり、テレビで見たり、ネットで見つけた情報はメモしておく。
 とりあえず今日からできるのは、その一点に尽きるだろう。
 
 あとは、ひとつの事に特化する必要はあるけれど、同時ににアンテナも張りめぐらせておかなければならないし、小説やマンガばかり読むよりはもっと知識になる学術書の類を読んだ方がいい。
 しかし、だからといって小説やマンガを一切読まないというのも弊害がある。おそらく小説やマンガを読んだら、一行か二行でそのストーリーを書き留めておくといい。内容は、「恋人が病気で死ぬ」とか「味方だと思っていたら犯人だった」とか、その程度でいい。
 こういった「物語の基本要素」を「情報」と結びつければマンガ原作がひとつできあがる。
 
 この世に「誰も思いつけないオレだけのオリジナル!」なんてものが存在すると思ったら大間違いだ。むしろストーリーは情報を掘り下げることによって深度を増してゆく。どんなに掻き消そうとしても匂い立ってくるモノこそが個性だったりオリジナル性なのだから、最初からそれにこだわる必要はない。
 
 さらに知っておかなければならないことがあるとしたら、マンガ家も原作者も、編集者のコマに過ぎないということ。実力以上に「使い勝手の良さ」が重要になってくる。プライドを持つなら、売れてからということ。
 
■漫画原作マニュアル β版
http://homepage3.nifty.com/DENNY/denny.html
(今回御一緒した、すぎたとおる先生のサイト。非常に参考になります)
 

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戦国武将 漢の死にざま

戦国武将 漢の死にざま

 Amazonではすでに5月下旬から先行発売されていたようですが、本日から全国書店・コンビニに並びました。
 おかげさまで、けっこう目立つところにあります。
 
 優秀なマンガ家さん達に支えられ、なんとか様になってますが、自分としては身もだえしたくなるような部分が多々あります。
 良いところはマンガ家さんのおかげ、ダメなところは原作者のせいです。これはもう、謙遜ではなしに…
 
■詳しくはこちら
http://d.hatena.ne.jp/dog-planet/20090506