マンバ考① 本気モードで☆乙女のロマンス
別冊egg『manba』という雑誌が、かなりヤヴァい。
一見、装飾華美なレイアウトに埋もれて見落としがちだが、彼女たちの言説は読みどころ満載で、サブカル者の妄想癖を加速させて止まないのだ。
みんなマンバの本質を、最後の一点で勘違いしている。「どうせブサイクなんだろ?」とか「メイクとった方がカワイイんじゃないの?」というワイドショー的な見解は全くもって的はずれだ。彼女たちが唯一共有しているのは、「乙女のロマンス」に他ならない。しかも彼女たちは俄然最強のロマンチストだ。
パッと見が軽く見えても交際歴5年のラヴな彼氏がいたり、「男ウケ? どんだけ〜???」と豪語して女同士の友情を育んだり、彼女たちの根本は90年代に一世を風靡した「瞬間恋愛系」的なモテとは対極のベクトルに向かっている。それはもはや僕に言わせれば、吉屋信子の『花物語』的な世界であり、大正ロマンから昭和初期にかけての少女小説の神髄である。そういえばマンバメイクと高橋真琴の少女画を見比べて欲しい。
提言論文 - かわいいマンバ
http://www.jmrlsi.co.jp/menu/report/2004/manba.html◆真琴るーむ
http://www.macotogarou.jp/
マンバの原色で俄然強メに盛った髪型と、高橋真琴描くところのボリュームあるお姫さまスタイルに花やティアラの装飾。マンバのネイルアートを流用しているというキラキラ輝く目元シールと、高橋真琴が少女の周囲に散りばめる花や水玉や星形や輝きを表現するホワイト。目を大きく見せるアイラインと、通った鼻筋。マンバメイクとは高橋真琴的な少女ロマンスの要素を顔面に凝縮した新たなる様式美に見えてくる。
良かったコトん〜と。ナンパされない。キャッチされない。ガイコクジンに写真撮られる。エンコーの誘いもチカンも来ない。これってイイコトじゃん? だって私、ラヴな彼氏いるからそーゆーの必要ないし。あるイミ自分自身守れてるって感じ。
マンバ教祖☆かぁ〜たんインタビュー TEXT●MEGUMI WAGURI
この防御力の高さはゴスロリのフリル占有率にも近いものがあるし、文学少年の前髪の長さにもリンクしていると思う。ブサイクだからモテないとか、マンバだからモテないのだという自分への言い訳ではなく、あえて積極的に自分へアタックしてくる男たちへのハードルを設けている。マンバは『美女と野獣』の美女ではなく野獣であり、『くるみ割り人形』のくるみ割り人形なのだ。
見た目なんて作ればいい。素顔なんて関係ない。自然体が一番だなんて舌の根が乾かぬうちにやっぱり天然美少女でマスかいてるオトコどもに、真っ向から本音でぶつかっているのは不自然さをつらぬくゴスロリとマンバに他ならない。マンバに関してはその様式美が世間一般の審美眼から微妙にズレるので難しいが、あの華やかさはきっと素顔よりも120%魅力的だと思う。花魁が白粉を塗ったまま接客するように、ある意味それはブサイクな彼女たちなりの世間への接客マナーなのだろう。しかしそれは性的欲望のターゲットとしては機能していない。だからこそ、内面の貧困さ、内気さを含めて自分を受け入れてくれるオトコにしかなびかない。
事実、ガングロの教祖☆ブリテリも、ゴングロ三兄弟も現役時代にはモテていない。その辺りがファッションを≪男にモテるためのツール≫として割り切っていたコギャルやそれ以前の女子大生ブームとは文脈が全く切り離されている。
そして、そんな彼女たちのロマンチックに共鳴したのがセンターGUYであり、モリオなのではないか? センチメンタルなものを求める男女の妥協案がマンバなのかも知れない。同じ言語、同じ様式――宮台真司が『草の根の天皇制』と呼んだコギャルの構成要素のみを抽出して、まったく別の世代、まったく別の民族がギャル文化を乗っ取ってしまった。少女ひとりひとりの個性はソフトウェアで、マンバという形式はハードウェアなのだ。パソコンが空っぽの箱と揶揄された時代があったように、マンバというカラッポな文化はむしろ少女という傷つきやすく繊細なゲル状の軟体動物をインストールするにはうってつけだ。それはまるで羽ばたく前の蝶が閉じこもる、サナギの殻みたいなものである。 渋谷で見かけても怖くて遠巻きにしてたけど、なんだか仲良くなれそうな気がしてきた。
彼女らコギャル語はもっぱら首都圏で量産される。方言があって人口学的流動性が低い地方と違い、東京だと相手が何者なのか分からないので、自分と相手が同じ前提を共有することを絶えず演出する必要が出てくるからだ。
同じ前提を共有するかどうか定かでない者同士が、特殊なシンボルを共有することで「同じさ」を演出し、「同じさ」の圧力に服する――これを「草の根の天皇制」という。コギャルに限らず、草の根の天皇制は、私たちの社会のすみずみに浸透している。
宮台真司 『援交から革命へ』