犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

JR大崎駅・サンリオ本社

 JR大崎駅は池袋と並ぶ山手線の終着駅であり、時々下車を強いられる。
 大崎よりも先の駅へ向かっていた人間はみな毒づき、殺気立つ。これほど敵意を向けられる山手線の駅も珍しい。
 それというのも、「繁華街である池袋ならあきらめもつくが、殺風景で何もない大崎で、なぜ自分は半強制的に降ろされるのか?」という理不尽さに怒りが隠せないのだろう。 
 かつて大崎は工業地帯でホームの周辺には野原が広がっていたという。年寄りに言わせると「お先真っ暗」に掛けて「大崎真っ暗」と呼ばれていたらしい。
 そんな大崎にサンリオの本社がある。昔は五反田の東京卸売りセンターにあったのを移転してきたのだそうだ。だから大崎周辺ではサンリオ系のイベントが多かったり、クリスマスの時期になると駅の装飾にはサンリオ提供でキティのライトがついたりする。
 
 そんなサンリオの社長である辻信太郎氏というのががまた、なかなかおもしろい怪人物なのだ。
 彼はみなしごで、かつては詩人を志していたというが挫折して一時期は左翼活動に走り、戦後は闇市サッカリンを売っていたという。さらにサンリオ開業当初は、秋葉原でゲリラ的に露天商をやっていたそうだし、数年前まで社員のボーナスはサイコロを振って決めたり、今でも社員全員分の年金を社長ひとりが株取引で稼いだ金で賄っていたりする。
 

 私は若いころから考えに考え抜いたあげく、よし、愛を対象にしよう、と決め、ソーシャル・コミュニケーション産業をはじめたのです。(中略)大人も子供もそれを買って友人や知人、恋人、親や子に贈る。贈ることで友情と愛情を届けるのです。この友情と愛情を対象にしたのが、私がやっている産業なのです。(中略)要するにひとびとの、お互いに仲良くなりたい、という気持ちを叶えることができるものなら、なんでも対象にする。だからこの産業の前途は無限です。
 
上前淳一郎 『世界制覇を夢見る男達 サンリオの奇跡』

 
 みずから「愛を食い物にして生きています」と断言しているのだからすごいと思う。僕はキティというのは愛らしいデザインを売っているわけではなく、あれは「空白」を売っているのだと思っている。顔面蒼白の無表情な子猫。カラッポで、そこには何もない。たとえばピンク色のキレイな背景にポッカリ空いた「穴」、それがキティであり、人々はキティにポジティブな何かではなく、潜在する「負のイメージ」を求めて金を払っていたのではないかと思っている。だからこそコミュニケーション不全のコギャルやオタクに受けたのだ。
 
 東京・品川方面へ向かう山手線のホームから見ると、ビルの窓に『ぽむぽむぷりん』がこちらをのぞきこんでいるのが見える。そこがサンリオ本社だ。 最上階の社長室からはダニエルものぞいている。もしも運悪く大崎止まりの山手線で降りてしまったら、ぜひ探してみて欲しい。