犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

平民金子と反魂香

 
奇妙な夢を見た。
それはえらく壮大で、息苦しい夢だった。
 
僕はなぜか『電波少年』のようなバラエティ番組の撮影で、数ヶ月、旅館に閉じ込められる。
それは勉強しまくって大学受験に合格するという内容の番組だった。
 
旅館には、なぜか平民金子(id:heimin)が一緒に泊まっていた。
しかも愛人を連れて。
愛人はアザミ嬢と呼ばれていた。
年増でハスッパで、いつも黒い服を着たキツネ眼の女だった。
さらにその旅館には女中として知り合いのMさんが働いていた。
 
何かのきっかけで、自分の部屋に反魂香(はんごうこう)というモノが存在することを知る。
それは死者の魂を呼び戻して生き返らせるというもの。
ホテルに泊まっているメンバーで話しているうちに、収録が終わる最期の日、試しにそれで誰か死んだ人を生き返らせてみようという話になった。
 
しかし収録途中、平民金子の愛人・アザミ嬢が出演者のひとりとトラブルになる。
エキストラとしてやってきたVシネ俳優とケンカしはじめたのだ。
相手は背が低く、太り気味の中年男だった。
どうも二人は過去に何かあって、もともと確執があったらしい。
なんだかんだあって、アザミ嬢がその男を殺してしまう。
しかも、僕の部屋で。
アザミ嬢はしきりに謝り、後悔していた。
そして「そうだ反魂香で生き返らせてみよう」と言い出す。

死体の前に、小さな香炉を置き、黒魔術のような趣向で儀式がはじまった。
儀式の途中、みんながちょっと眼を離した隙に死体は目の前から消える。
どこへ行ってしまったのだろうと疑問に思っていると、Mさんが「生きかえって、そのままどこかへ行ってしまったんじゃない?」と言い出す。
その日はみんな釈然としないまま解散したが、後日、その男の目撃談が風の噂に流れてくる。
「ああ、本当に生き返ったんだと」僕は安心してロケを続けた。
それ以来、アザミ嬢も姿を消した。
そして数ヶ月にわたるロケが終わり、僕は自宅へ帰った。
 
 
それからしばらく経って、それとはまったく無関係に、別の仕事で別のホテルに、やはり長期滞在することになる。
するとなぜだか、そこにも平民金子がいて、しかも今度はMさんと付き合いだして二人で部屋をとっていた。
僕たち以外にも、R大学の学生達もいた。
 
またもや僕の部屋で、第三者の見知らぬ男といざこざが起きる。
今回は僕とその男が言い争いになった。
理由など細かいことは一切覚えていない。
そこにたまたまR大学K学部の●●教授もいて、「そうだ、険悪な雰囲気を打ち消すために、私が手品を披露しよう」と言い出す。
三者の男に両手を差し出させ、教授が気合いを入れて手刀を振り落とすと、男の両手の指が、第一関節からすべて切断されてしまった。
しかし断面からは血が流れない。
教授は「これで少しは懲りただろう」と笑った。
男は狼狽して騒いでいる。
男の痛がり方からして、どうもトリックとは思えない生々しさがある。
男は「頼むから早く指を元に戻してくれ」と哀願する。
「そうだなあ」ともったいつけながら教授は、ベランダに出てタバコを吹かし始めてしまう。
そこへMさんや平民金子もタバコを吸いに出ていき、部屋に残された僕は「痛い痛い」とうめく男と二人きりで気まずい時間を過ごす。
戻ってきた教授は、「こんな趣向はどうだろう」と言いながら、ベランダから巨大な香炉を部屋に持ち込んでくる。
それはいつか見た反魂香にそっくりのカタチをしていた。
ただ、前回よりも異様に大きい。
これの中に男と指をいれると、元通りくっつくというのだ。
男が切断された指と一緒に、香炉の中に入れられる。
教授が呪文を唱えると、香炉から煙があがりはじめた。
「しばらく時間がかかるから」というので、それからしばらくみんなでボンヤリとしていた。
香炉の煙が消え、中をあけると男はいなくなっていた。
そして灰の中にはなぜか缶詰に入っているようなスウィートコーンの粒が散乱していた。 
数えると10個。ちょうど指の数だけある。
「実は切断された指はこのコーンで、はじめから男の指は切られてなかったのだ」と解説する教授。だが、香炉の中から男の姿が消えている。
やはり釈然としない気分のまま、その日が宿泊最終日であることを思い出し、平民金子とともにチェックアウトの用意をしはじめる。
 
チェックアウトするためホテルのカウンターで手続きをしていると、ホテルの外をもの凄い勢いで走っている学生たちがいる。
しかも一人の女の子が駆け込んでくると周囲の学生が連携プレーで上に来ていた黄色いTシャツを脱がせてまったく別の模様のシャツに着替えさせ、今度は別の生徒がタッパに入れたもつ煮込みを小脇に抱えてどこかへ走ってゆく。
みんながもの凄い勢いで何かをやっているのだが、まるでその全体像が見えない。
近くにいたS学部の生徒が、「あれ、K学部の生徒ですね。しかも●●ゼミの子たちですよ」と教えてくれる。
その時は「変なの…」程度にしか思わず家路についた。
 
家に帰る途中、僕はふと奇妙なことに気づく。
「そうだ、切断された指を元に戻すより、その人間を殺して口を封じてしまった方が簡単だ…」と。
しかもベランダで教授、Mさん、平民金子がタバコを吸いながら何か話していた光景を思い出す。
もしかしたら、3人は僕を守るために共謀して男を殺し、死体を隠蔽したのではないか?
その際、前回のホテルと同じトリックが使われたのではないか?
そんな仮説に思い当たる。
そして平民金子の厚い友情に涙したのだった。
 
そして新宿で待ち合わせていた妻に、その推理を語り始めた。
その日は雨が降っていた。
拾った傘をさしながら、こんな話は誰かに聞かれてはまずいと思い、人通りのない道を選んで歩きながら延々と話した。
すると裏通りなのになぜかきらびやかな建物の裏側に出た。
それはサンリオ・ピューロランドだった。
従業員が、カラーコピーした月間のイベントスケジュールを配っている。
キティがちりばめられた紙を受け取りながら、「ピューロランドってこんな所にあったっけ?」と思いながら目が覚めた。
 
目が覚めてこれは長編小説が書けるくらい面白い夢だぞと思って書き留めたが、冷静に読み返すとまったく面白くなかった。