犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

焦土に生きる、闇市に生きる

 

■イオンの撤退に揺れる地方都市 本格化する郊外SCの淘汰!
http://diamond.jp/series/closeup/08_11_29_001/

 
なりまさんやまつおかさんからの孫引き、曾孫引きなんですけど、これにはいろいろ思うところがある。『ワーキングプア死亡宣告』の中で書いたことにもちょっと関連するし。 
 
昔『プラネッツ Vol.2』に書いた文章が、勝手に「もう商店街はダメだ、これからはジャスコだ!」みたいに解釈されて非常に困惑したことがある。
あれって環境を管理することによって人の心理を誘導するテクニックのネタばらしであって、専門用語風に言えば「環境管理権力」とか「ディズニーゼーション(ディズニー化)」のようなものだった。
そういった誤解に応えるために、
 

■犬惑星 - ファスト風土批判に対する批判への反論
http://d.hatena.ne.jp/dog-planet/20070325/

 
こんなエントリーを書いたりもした。
 
 
たとえば三浦展は何年も前からずっと、こうなることをアメリカの事例なんかを挙げて警告してきたわけだし、「今は便利でいいかも知れないけど、ジャスコが潰れたら生活が破綻するよ」って話だったわけだ。
 
で、実際に原油高騰でガソリン代が値上がりしていた頃、みんなが自動車の使用を控え、郊外のショッピングモールでの買い物まで控えるようになってしまった。それによって業績は悪化、閉店という店も少なくなかったが、そうなってはじめてみんなが事態の深刻さに気づいた。仕方がないので地元商店街で買い物しようとしたら、すでに商店街は壊滅。シャッター通りと化していたのだ。
ガソリン代は高騰しているのに、近場に買い物が出来る場所もなく、郊外に住む人々はさらに遠い地方都市にまで出向かなければならない「買い物難民」になってしまった。
 
これは前述のエントリーにも書いたけど、イオンだけの責任じゃなくて「快適な環境を低価格で手に入れること」の意味とその結果どうなるか、想像力を働かせることのできなかった消費者側の責任でもある。まあ、今更そんなことを言っても仕方がないし、消費者の側に何ができたかといえば、気づいたって何もできなかっただろう。
 
 
これはちょっと関係するのかなって気もするエピソードなんだけど、今年の夏、戸越の商店街でやったイベントの話。
実は途中で毎年発行している商店街のフリーペーパーとタイアップしたいという某「地域密着型フリーペーパー」がやってきて、一緒に組んでやったら手違いなのかわざとなのか、新聞に折り込まれるはずのフリーペーパーがこちらの指示した量の3分の1くらいしか入らず、商店街の中にあるお店にする配られないという事があった。そんなこんなで、ほとんど地域周辺に広告できない状態でイベントを開始するハメになってしまったのだ。
だが、フタを開けてみたらなんと数年前にテレビ番組で告知された時にまさる勢いの集客力があって驚いた。
これまで地道にイベントをやり続けてきたおかげで知名度が上がっていたというのもあるし、商店街に張り出されたポスターの広告効果もバカには出来ないことの証明だろう。しかし、やはり不況と原油高騰のせいで今年の夏休みはレジャーが「安・近・短」化していたのが大きい。時代や情勢のおかげだ。
 
また、戸越は日本一長い商店街として知られているが、そのおかげで駅から一番遠い地域はやや閑散として人気が少ない。そのせいで次々に店が撤退し、ここ数年は魚屋が一件もなくなっていた。しかも人通りが見込めないのでスーパーの出店もない。お年寄りが多い地域なので、近場で生鮮食品がそろわないというのは致命的だった。
それが最近、ちょうどお肉屋さんと八百屋さんの間の空き店舗に魚屋さんが出店し、一カ所で生鮮3食品が買えるようになった。
この変化は大きい。相乗効果もあるし、何よりお客さんにとって便利になったのだ。
 
戸越はたまたま、この不況という時代の流れに乗って、地域のお客さんたちが地元商店街に求めるニーズに応えることができた。それは昔ながらの大きな商店街であり、そこそこ恵まれた環境にあるからだ。近所にはいくつか大型スーパーもあるが、なんとか共存しているし、ジャスコに潰された郊外の商店街とは状況が違う。
でも、やはり今の時代に商店街を維持するのが大変であることには変わりない。高度経済成長期に比べて、個人経営店の売り上げは3分の1以下だというし、年収にすれば平均すると200万円から300万円程度だという*1。そんな中、「自分が店を続けていくってことが、地域のお客さんの生活を守るってことなんだ」という自覚は多少なりともある。しかも今回の不況で、そういった熱意や正義感のようなものがまったく的外れではなかったことが立証されたわけだ。
 
 

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今の世の中に足りないのは「意欲」と「知識」だと思う。
ワーキングプアも地元商店街も、それは変わらないし、格差を生み出している元凶も金銭以上にこの二つが関連していると思う。巨大企業の経営者たちは気持ち悪いくらいのポジティブシンキングだったりするけれど、実際にそれは必要なものだったりするのだ。
「意欲」をかき立てるのは、実は非常に難しい。だったらせめて、今は「知識」を求めるべきな気がする。意欲が無くても知識は蓄積される。それが自信となって意欲がわいてくるかも知れない。
寺山修司は二十代の頃、病床で本を読み続けた。自分も学生時代、人と話すことができなかった頃にとにかく何をすればいいのかわからなかったので本を読み続けた。今はそれが「本」である必要はないだろう。ネットでもテレビでも、知識の源泉はいくらでもある。 
あとはまあ、これから戦争が起こるかも知れないし、戦後は闇市で生き残らないといけないかも知れない。古くさく被害妄想的だけれど、僕はいつも次の「戦後」を想像しながら生きている。何をすればいいのかわからない時は、とりあえずジョギングと読書なんじゃないかと思う。他にやるべき事が見つかったら、そっちをやればいい。
 
きっと戦後の焼け野原で必要とされるのは「強さ」と「優しさ」なはずだ。
自分が強くなければ、周囲の人を思いやることなどできないし、再び戦場より悲惨な争奪戦が繰り広げられてしまう。
いやむしろ、すでに日本は「焼け野原」なんだと空想してやりなおすくらいの覚悟が必要なのかも知れない。空襲に焼け残った幸福な人もいれば、焼け出された不幸な人もいる。世の中は不条理で不平等で、格差もある。しかし、赤木智弘が言うような戦争をやらなくても、今の日本には充分な流動性はあるんじゃないかと思っている。階級が固定された封建社会よりはよっぽどましで、悪あがきすることくらいは許されている。貧乏人が不利なのは昔からの話だし、年老いた両親やニートの子供を抱えていたりというハンデだって、今も昔も変わらないのだから。

*1:まあ、収入が一緒でも、経費として色々落とせるので、個人事業主は単なるフリーターよりは恵まれていると思う。