犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

有刺鉄線の中のドン詰まり感

 

被告弁護側は冒頭陳述で「少年は自衛隊を逃亡し、隊にも実家にも戻れずに死のうと思い、現実から逃避した」と述べた。
 
■「中学の時から殺人に好奇心」 19歳元自衛官の被告
http://www.asahi.com/national/update/0119/SEB200901190012.html

 
「中学生の時から考えていた『人を殺したらどういう気持ちになるか』という好奇心を満たそうと思い、犯行に及んだ」という供述も重要だけど、上記の部分もかなり気になるところ。
それこそ殺人に興味あるなら、自衛隊に所属してた方がチャンスはあったじゃんという気がする。
戦場で殺せば英雄だったのに。そうしたら充実感だってあったかも知れない。
 
自分の場合は自衛隊セーフティネットであり、人生最後のチャンスであり、ここで挫けたらドン詰まりっていうのがあったから必死だったけど、それと同時にそこで挫けていたら本当に行き場が無かったんだろうなとも思う。
思いっきり内向的で学生時代に運動もしていなかったから、毎日つらかった。
今にしてみればよく脱柵しなかったなと思うし、同じ営内班のメンバーやベッドバディのT君や思いっきりミリタリーマニアでパソコンオタクのM君たちがいなかったら、続いていなかったかも知れない。
そう考えると、自分があそこから這い上がれたのは「やる気」や「実力」ではなく、単なる「運」でしかなかった。
 
実際に脱柵したヤツは何人かいた。
その度に班長は「どうせ逃げるなら温泉地に逃げてくれよ。捕まえるついでに経費で温泉入れるから」と笑いながら言っていた。
 
そういえば、教育隊の物干場で洗濯物に放火されるという事件が立て続けに起き、警務隊が捕まえてみたら「オレは左翼だ」と名乗る新隊員だった事がある。
でも、左翼というのは言い訳で、本当は毎日の訓練がつらくて事件を起こせば除隊されるんじゃないかと思ったらしい。
親から妙な期待を掛けられて、今さら自分から辞めたいと言い出せなかったのだ。
はた迷惑な話だけど、気持ちがわからないでもない。
 
自分にとっては自衛隊は学校や家庭よりも安らげる唯一の場所になったけど、あの共同生活で孤立したら、本当に死ぬしかないだろう。
そのせいか自衛隊の自殺率はけっこう高い。
ちょくちょく自分の部屋の上の階とかで首吊りとかあった。
 

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昔はよくバイトや無職で将来の見通しが立たないという若者を見かけると、「27歳までなら自衛隊に入れるぞ」と冗談交じりに勧めていたのだけれど、誰一人自衛隊になんか入ろうとはしなかった。
たとえ将来に希望がもてなくても、彼らにとっては娑婆での生活と自衛隊を比べたら、断然娑婆の方が楽だったのだろう。
 
それが、最近はちょっと違うのかなという気もする。
これは自衛隊時代の後輩から聞いた話だが、就職先の同僚が会社を辞めるというので自衛隊を勧めたら喜んで入隊してしまったという話を聞いた。
さらに、こないだロフトプラスワンのイベントの帰り、終電間際の山手線の中でジャージ姿に大きなスポーツバッグを抱えた高校生くらいの少年二人組が、「自衛隊っていいよね。毎日運動して、銃が撃てるらしいよ」という話をしていて世の中変わったなあと思った。
雇用のない地方ならともかく、東京のド真ん中でそんな台詞を聞くことになろうとは。
 
まあ、腐っても国家公務員だからなあ。
アタマに「特殊」が付くけど。
 
 
■『ワーキングプア死亡宣告』草稿 7/7
http://d.hatena.ne.jp/dog-planet/20081116
→「将来の夢は公務員」
 

ワーキングプア死亡宣告 (晋遊舎ブラック新書 13)

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