犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

『ワーキングプア死亡宣告』草稿 6/7

 
■正直者はバカを見て、犯罪者が得をする
 今の時代、「真面目さ」や「勤勉」という昔ならば美徳とされた性格はむしろ損をします。むしろ求められているのは「競争力」であり、人に優しかったり、モラルを忠実に守ったり、組織に従順な人たちは、悪い人間に利用されて喰い殺されかねない時代なのです。
 
 資本主義社会で、自由な競争が人々を幸福にすると信じられてきたのは、誰もがルールを守って平等に競争することを前提としていたからです。しかし現実にはウソをついたり、ルールを破る者があらわれます。
 その典型例が、食品偽装やマンションの耐震偽装問題でしょう。
 食品の原材料を偽ったり消費期限などの表示を誤魔化す食品偽装と、建築士がウソの設計書を作って鉄骨などの材料を少なく見積り、建築コストを減らして利益をあげていた問題は、ルールを破ることで儲けを増やしていたという点で同じです。
 みんながルールを守っている中、自分だけルールを破ればライバルを出し抜くことができます。
 消費者は基本的に同じモノが並んでいれば安い方を選ぶので、経費を下げて商品の値段を安くすれば、確実に売れます。これは正社員を非正規社員にすり替えたり、海外の安い労働力を使って商品コストの削減に励むのも一緒です。
 法律にのっとった競争ならば企業努力として認められますが、ウソや偽装がバレて犯罪性が明らかになれば、もちろん逮捕されます。
 しかし、捕まるとわかっているのに、なぜ多くの企業が犯罪に手を染めるのでしょうか?
 実は、罪に対する罰の重さが、日本ではあまりに軽すぎるのです。
 2007年のベストセラーに『食い逃げされてもバイトは雇うな』というが本がありました。この本では、数人の客に食い逃げされるよりも、毎日バイトを雇って時給を払う方が高くつくので、会計的に損だという内容が解説されています。
 このたとえで、店主を犯罪者に入れ替えても同じです。10回に1回逮捕されたとしても、金銭的な利益の方が高ければ犯罪は生業として成立するのです。
 ライブドア事件で逮捕されたホリエモンはいまだに億万長者ですし、年間に数千万円の利益が出る密漁は捕まっても「3年以下の懲役または200万円以下の罰金」で済んでしまいます。悪徳リフォーム業者も同じようなもので、詐欺が立証されても10年以下の懲役程度で、被害者への損害賠償はほとんどありません。普通に働いて稼ぐよりも他人を騙してボロ儲けした方が効率的なのです。
 悪徳業者が何度逮捕されても反省せずに犯罪を繰り返すのは、つまりこういうワケです。
 一流企業のサラリーマンですら生涯賃金は約3億万円と言われています。犯罪によって、それ以上の額を一瞬にして稼ぎ出すことが可能だとしたら、真面目にコツコツ働くことなどバカらしくなってきます。
 これでは真面目に働く意欲は失われ、生活のため違法行為に手を染めるというような、短絡的な犯罪者が増える可能性があります。
 最近ではネットオークションなどで個人による売買が手軽に行えるようになったため、普通の人たちが著作権違反の商品や盗品を売って利益をあげたり、架空請求ネットワークビジネスなど詐欺まがいの副業に手をだしはじめています。
 貧乏人にとって再チャレンジの難しいこの国では、皮肉なことに犯罪者にとっての再チャレンジは簡単なのです。
 
■搾取よりひどい略奪ビジネス
 さらに他人の不幸を喰い物にするような、悪質な企業や商売が世の中には多く存在します。例えばチワワやグラビア・アイドルのCMでお馴染みの消費者金融などは、そのフレンドリーなイメージとは正反対の恐ろしい手口でボロ儲けしています。
 まず、消費者金融の利息は「利息制限法」に定められた利率を超えています。しかし現在、「利息制限法」と「出資法」という二つの別々の法律があって、利息の上限が違うのです。これがグレーゾーン金利です。
 例えば10万円以上100万円未満の利息は年利18%が上限で、それ以上の請求をされても借り手に支払い義務がありません。ただ、借り手が任意で18%以上の利息を支払っても年利29・2%までなら刑事罰に問われないというだけなのです。
 このような高金利で借金をしてしまうと、半永久的に利息だけを払い続けることになり、借金はまったく減らないという状況に陥ります。そして借りたが最後、深夜に自宅を訪問して怒鳴り散らしたり、職場に嫌がらせ電話をかけるなど、脅迫まがいの取り立てが待ち受けています。これらの取り立ては違法ですが、テレビでCMを流しているような大手の消費者金融でも実際に行われている手口です。
 さらに返済が不可能になってしまった多重債務者に対して「債務の一本化」や「おまとめローン」を持ちかけてきます。これは一見すると借り手に対する救済措置のように見えますが、最初から持ち家や土地などの不動産を担保として登録させ、返済不可能なことを見越したうえで奪い取ろうという悪質な手段なのです。しかも多重債務者の多くはすでに自分が住んでいる家などを担保に入れざるをえないので、あっという間に自宅を奪われ、ホームレス状態になってしまいます。
 最近では大手銀行の名前を前面に押し出したり、初回は金利ゼロなどを売りにして、気軽にお金が借りられるような広告をよく見かけますが、一度でも借りてしまうと向こうから電話がかかってきて、ほとんど押しつけるようにお金を貸し付けられるという例も少なくありません。
 こうした犯罪まがいの手口を消費者金融で働く社員たちは日常的に行っており、中には罪悪感に悩まされる社員もいます。しかし就職難の今、他に仕事を選ぶ余地の無い彼らは、こうした消費者を騙してお金や財産を巻き上げるような仕事でも続けざるをえないのが現状です。辞めたら他に仕事があるかどうかわからないという不安から、悪質な企業だとわかっていても辞めることができません。
 就職したら組織的にオレオレ詐欺を行うような会社だったり、悪徳リフォーム業者だったり、2000円くらいの価値しかない絵画の複製を200万円以上の値段で売りつけるような会社だった、などという話はいくらでもあります。
 さらに2006年には、消費者金融10社が債権回収のため借り手全員に生命保険を掛けていたという衝撃的な事実が発覚します。しかもそのうち大手5社が受け取った保険金の件数は1年間で約4万件。そのうち自殺によるものが3649件あったのです。
 日本の自殺者は年間3万人以上と言われているので、少なくとも自殺者の約1割が消費者金融の取り立てによって命を落としているということです。
 財産どころか命まで奪ってゆくような会社のCMが、大手をふってテレビで流れています。さらに町中には無人の自動契約機があり、コンビニや携帯電話でも気軽にお金が借りられるような世の中です。スイカなどの電子マネーレンタルビデオマンガ喫茶、家電量販店のポイントカードにまでクレジット機能が付き、国家ぐるみで庶民を借金地獄へ突き落とそうと企んでいるのではないかと被害妄想を抱きたくなる有りさまです。さまざまな罠が、まるでアリ地獄のように日常生活に潜んでいるということに、もっと多くの人が気づく必要があります。
 
■銀行だけがボロ儲けするゼロ金利政策
 日本人は昔から貯金好きだと言われています。
 経済学者は、消費が落ち込んで景気がなかなか良くならないのは、庶民があまりお金を使わないからだと指摘します。しかし将来の見通しもつかず、先行きも不安定な今の世の中で無駄遣いする気にはとてもなれません。
 今、日本の経済は景気が良かった頃の貯蓄を切り崩して耐えしのいでいるような状態です。これだけ若年失業者が増え、ニートやフリーターばかりの世の中で、どうにか社会が秩序を保っていられるのは若い世代にパラサイトできる団塊世代の親がいるからだと言います。
 しかし一般家庭の貯蓄率は年々減少し、貯蓄ゼロの世帯は全体の約25%。4世帯に1世帯は貯蓄が無いという計算になります。こんな状況で家族に病気などの急な出費があれば、一家揃って路頭に迷うことにもなりかねません。
 そんなわずかな預貯金にすら、銀行を保護するためのゼロ金利政策で利子はつきません。お金を預けても利子がつかないのに、そのお金を引き出せば手数料が掛かります。
 たしかに銀行が潰れれば、国民の預貯金に影響が出ます。しかしゼロ金利政策と景気回復で、銀行の業績は順調に上がり、過去最高の経常利益をあげていると言います。

ワーキングプア死亡宣告 (晋遊舎ブラック新書 13)

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文字数制限で文章が途中で途切れてしまいました。
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