犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

ケータイ小説研究3

「みなさんはあまり小説を読まないでしょう? 漫画が多いと思う。惜しいのは、会話や感情の羅列がだーっと書いてあって、風景や情景、人物の描写がほとんどないところ。若い人たちがどういう目でこの世界を見ているのか、それが読みたい」
 
■“第1回日本ケータイ小説大賞”の表彰式が開催――“横書きの文学”が生まれるとき
http://ascii24.com/news/i/topi/article/2006/11/28/666144-000.html

 
 この室井佑月のコメント、ラジオで聴いた時はもうちょっと長くて、いまの若い女の子がどんな風に肌で風を感じたり、草の匂いをかいだりしているのか、そういう細かい描写が読みたいみたいなことを言っていた気がする。でもそれって逆で、そういう「特定の個人・限定された個人」が体験した特別な感触ではなく、日常生活や学園生活に根づいた物語や、「もし自分がその立場だったら…」と想像できる余地のあるユルさがケータイ小説の妙味であって、「語られていない」からこそ、彼女たちは自分自身を主人公に投影できるんじゃないかと思う。
地域やシチュエーションを限定する風景描写や、キャラ立ちというのはあまり必要なくてむしろ邪魔なんじゃないかと。
 
 地方にいくたび、「ああ、こーゆーところで暮らしてる少年少女たちの物語こそ必要なんじゃないか」と思う。それを実現してるのがケータイ小説なのかも知れない。
 ビートルズとか学生運動とかファミコンとか、同時代性の高いブームが無い時代だからこそ、結局みんなの共通体験て中学・高校の≪学生生活≫くらいしか見あたらない。ちょっとでもその先に行くと就職したり大学行ったり専門学校いったり、急に細分化されてしまう。そういう意味では、ケータイ小説で最もウケるのが学園恋愛モノであるというのもうなづける。
 
 はじめは一画面に表示される文字数の少なさにイライラしたが、馴れてくるとそれが射幸心に近い快楽を生みはじめる。昔パソコン通信時代、ピーガガーという電子音を聞きながら回線が繋がる瞬間に期待を込めて祈っていたのと似たような感じだ。
 文字数にイラだちを覚えるのも、通信中はバッテリーの減りが早いしパケ代が気になるから「画面保存」して後で読もうという文系男子の貧乏くささからくるものであって、ケータイ小説の醍醐味ってあの次のページをダウンロードするまでの「溜め」にあるんだとわかってきた。ドキドキ、ワクワク、ハラハラする感じ。一見するとボタンを押して次の文章を表示するという動作は能動的で読者に委ねられている感じだけど、実は読者が読む速度を書き手が制御できるということなので、より「洗脳力」のある文章が書けるんじゃないかという気がする。一種の「催眠効果」がある。
 
 渡辺浩弐が「なぜ無料で読めるものを、わざわざ本で買うのか」その辺を考察しないと、ケータイ小説と聞いて溜め息つくようなオトナには何も理解できないだろうみたいなことを言っていた。その通りだと思う。
 ケータイ小説作家の掲示板を見る限りでは、ファンになった子が記念品的に買ってるらしい。むしろデジタルデータってカタチにならないものだからこそ、感動をカタチで残したいという感じか。いわゆる観光地で買ってくる自分用のお土産とか、映画のパンフレットに近いんじゃないかと思う。
 自分の感動したシーンのページをブックマークして読み返したりもしているらしい。ケータイ小説ならではの消費の仕方だ。
 

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てきとうにケータイ小説をレビューしてみた。

■赤い糸
http://ip.tosp.co.jp/BK/TosBK100.asp?i=namida7412&BookId=1
現段階でランキングトップ。書籍化されたものの中だと「空恋」とかよりこっちの方がきちんとケータイ小説ならではの技法に優れていて、単純におもしろい。女の子の恋愛における切ない心理描写がえんえんと続く。甘エロじゃないし、文章力もきちんとあるので、「ケータイ小説=エロ小説」とは限らないんだなと思わせる。正統派ジュヴナイル。主婦らしいけど、なんか地方在住少女の暮らす日常描写に優れていて、なおかつヤンキーやギャルにまでなりきれない普通の女の子ってところが共感を生んでいそう(周囲はおもいきりヤンキー文化ってところも込みで…)。

■幼なじみ
http://ip.tosp.co.jp/BK/TosBK100.asp?i=___Osanamajimi&BookId=1
「…言っとくけど,俺エロいから。覚悟しとけよ?」っていう惹句にブッ飛んだ。まだ全部読んでないんだけど、前半はそこまで過激じゃない。ただ、煽りはうまい。

■わがままなご主人様
http://ip.tosp.co.jp/BK/TosBK100.asp?i=sakurairo77&BookId=3
男性の萌えシチュエーションを逆視点から描いたもの。女子高生がいきなりドSの同級生宅でメイドさせられる話。いきなりキスされたりという甘エロ満載。

■・恋愛約束・
http://ip.tosp.co.jp/BK/TosBK100.asp?I=drop_honey&BookId=1
甘エロのお手本みたいな感じ。性欲剥き出しの男子ってどこまで女子に需要あるんだろう。「ミントティーン」とか「パステティーン」だと凄いんだけど、これは一種のファンタジーな気もする。自分に対する性欲が暴力に向かわないって、現実社会ではなかなかあり得ないと思うので。

■第1弾−呪い遊び−
http://ip.tosp.co.jp/BK/TosBK100.asp?I=ura_saorichan_0317&BookId=1
唯一ランキング入りを果たしている恋愛以外のジャンル。ゲーム性の高いホラー。

■言霊
http://ip.tosp.co.jp/bk/TosBk100.asp?I=con13&BookId=3
オチはアレだけど、表現技法として面白い。ケータイ小説ならではのホラー。この子はホラーのなんたるか、オカルトのなんたるかを皮膚感覚で理解している。
ホラーこそケータイ小説にぴったりのジャンルだと思うので、開拓しがいがありそうだけど、需要は完全に恋愛方面なので、どうなんだろう。

■歪んだ村と狂った旅人。
http://ip.tosp.co.jp/bk/TosBk100.asp?I=katakoinotuk&BookId=1
読んだ中では一番愛着がある。メルヘン・童話のジャンルになってるけど、気持ち悪さが秀逸。14歳の女の子らしいけど、たしかに文体は中学生らしい。