犬惑星

『ゆるキャラ論』著者・犬山秋彦のブログ

君は、O社の暗黒面を見たか?!

東京ディズニーリゾート暗黒の軌跡

東京ディズニーリゾート暗黒の軌跡

「叩けば、いくらでもほこりの出る会社だった」とは、東京ディズニーランドが軌道に乗りだした頃、高橋政知が漏らした言葉である。政財界の山師たちにとって、オリエンタルランドはまさに利権の巣窟だった。
 
田中幾太郎 『東京ディズニーリゾート暗黒の軌跡』

 
 いやはや、これは良い本です。著者本人は悪口のつもりで書いてるんだろうけれど、結果的に叩かれてる側がカッコ良く描かれてしまっている。むしろ数あるビジネス関連本とかに有りがちなディズニー万歳的な提灯記事より、よっぽどリスペクトしてる。口が酸っぱくなるほど繰り返すけど、「オレはヒトとはちょっと違う。ディズニーなんて大嫌い!!」みたいな小悪党気取りのディズニーヘイトなんて実は自民党とか巨大メディア並みに体制側の人間なんだってことを自覚した方がいい。この本を読めばそれがよく分かるはず。世間は意外とディズニー嫌いにあふれていて、むしろディズニーの片を持つヤツなんてキチガイばかり。マイナーだとかキチガイだとか不思議ちゃんを気どりたいなら……(以下自主規制)
 
 僕は今まで、さんざんウォルト原理主義を標榜してきたけれど、同時にオリエンタルランド2代目社長であるところの高橋政知リスペクターでもあって、興味の対象はディズニーそのものではなく、ウォルト本人と高橋氏の作り上げた『東京ディズニーランド』に限定されていると言っても過言ではない。
 
 まあ、本の内容としては東京湾の埋立計画が持ち上がってからディズニーランドが完成するまでのスキャンダラスな側面が克明に描かれているわけなんだけれど、この本自体は政治がらみの汚職事件や、企業トップの利権争いばかりにスポットが当てられているので、サブテキストとして『「夢の王国」の光と影―東京ディズニーランドを創った男たち』辺りを読んでおくと理解が深まると思う。
 

「夢の王国」の光と影―東京ディズニーランドを創った男たち

「夢の王国」の光と影―東京ディズニーランドを創った男たち

 
 計画が立ち上げられた当初は、誰もディズニーランド誘致なんて望んでいなかったし、誰も本当に実現する計画だなんて思ってなかった。オリエンタルランド東京湾を埋め立てて、そこの地価を高騰させて住宅用地として転売して逃げ切るつもりだろうとみんな思っていたらしい。実際、そう企んでいた山師たちがオリエンタルランドには幾人も接触を試みてくるし、当時の古い記事を発掘すると週刊誌なんてそんな話ばかりを暴き立てている。しかしそういったハイエナたちは次々と汚職問題や詐欺や足の引っ張り合いみたいな闘争に巻き込まれて表舞台から退場し、ついには高橋政知さんだけが生き残る。彼自身はディズニーランドなんかに一切興味がなくて、オリエンタルランドの初代社長で京成電鉄の社長でもあった川崎千春の命をうけ、会社に対する忠誠心や、一度乗りかかった事業に対する個人的な意地から、無謀とも思えるこのディズニーランド誘致という大規模な計画に尽力する。地元漁師と毎夜酒を酌み交わし漁業権の放棄を説得し、政治家やヤクザに土下座して、あげく自分のクルマや邸宅を売り払っては資金を調達し、千葉県知事との癒着や汚職にも手を染める。任侠的な視野から見れば、こんなにカッコ良くて豪毅な人物は他にいない。 誰も望まない不毛な事業に血道をあげて、さんざん悪し様にけなされながらもディズニーというキラキラ輝く夢の王国を実現させ、ここまで成功させた偉大な人物。実際のところ、「ディズニーランドみたいな遊園地がつくりたい」と適当なことを言い出した川崎千春の酔狂に付き合って、それを実現させた高橋政知氏の情熱は奇跡に近い。夢だの魔法だのは二の次で、その奇跡の物語に僕は勝手な思い入れがある。
 
 赤ら顔の巨体がトレードマークだった高橋氏の「ディズニーランドで酒が飲みたい」という言葉を受け継いで現在ディズニーシーではディズニー側の意向を無視してアルコールが飲めるわけだし、シーのオープンの9月4日というのも実は高橋氏の誕生日に設定されている。そういえば彼は生前、アイスクリームを舐めながらパーク内を散歩するのが好きだったらしく、今でもその名が「アイスクリームコーン」というショップの2階に刻み込まれているというエピソードは有名だが、当時はたらいていたキャストに話を聞くと、ふらりとバックステージに現れては正社員や準社員の区別なく酒に誘って一緒に飲むのが好きだったという。数々のドス黒い伝説はあるけれど、そんな性格だから一部の反乱分子的な社員からは嫌われていたにしろ、彼を慕っているキャストは多かったようだ。
 
 高橋氏をはじめ初期のオリエンタルランドは、裏では右翼のドンとして知られる児玉誉士夫と人脈的につながっていたりもしたらしいのだが、そういう暗黒面がまた被虐的な少年の心をくすぐって止まない。清濁混交的なふところの深さがまたディズニーの魅力だ。生まれた時からディズニーが好きだなんてヤツはただのバカ。この本は、反抗期を終えてからぜひとも読んで欲しい。まあ、これを読んでもやっぱり嫌いなら、それはそれで正しいと思う。
 
 それはそうと、今現在はスポンサー企業として名をつらねている三井不動産、噂には聞いていたけどココまで確執があったとは……お互い、よく関係を保ってるなとオトナの度量を感じてしまう。いや、これぞ利権やら金やらのパワーなのか……。
 

■関連リンク
シリーズ ディズニーランドその光と影 http://www.uwasanoshiokinin.com/disney.html
海と浦安 http://www.ichiyomi.jp/umi/index1.html
東京ベイ船橋ビビット http://vivit.livedoor.biz/archives/2004-06.html
東京ディズニーリゾートクロニクル http://homepage2.nifty.com/DISNEY-JOHOLAND/tdrcrotdl.htm
東京ディズニーランドと埋め立て利権 http://www005.upp.so-net.ne.jp/boso/disney01.htm

 
 常識的に考えて、本当にボロ儲けしたいなら遊園地なんか作らないんじゃないかと思う。実際にアレだけの集客力を持っているのは数あるディズニーパークの中でも「東京ディズニーランド」だけだし、TDLが黒字なのに影響されて第三セクターがさんざんテーマパーク事業に手をだしたけどことごとく惨敗している。よくディズニー批判の的になる「料金が高過ぎ」というのも、よくよく考えてみるととりあえず5500円のパスポートを買えば一日中遊び放題なわけで、コレは映画館とか居酒屋に比べるとまったくユーザー側にとっての経済効率はむしろ高い。映画館で2時間1800円とすれば、6時間いれば6400円になる。モンテローザ系の激安店はともかく、ちょっと居酒屋で2,3時間過ごせば、一人5000円なんてアッと言う間だ。開園当初、弁当の持ち込みを禁じてボロ儲けを企んでると言われたが、アレはゲストが「夢と魔法の王国」に没入するため景観を保つためであって、いちおう弁当を食べても良いスペースは確保されている。だいたい、ペットボトルのジュース200円というのだって、一般の量販店で値引きされている100円前後の値段で慣れてしまっているから感覚がマヒしてるけど、もともと150円くらいするものだし、山頂や観光地へ行けばもっとボッタクリなところはたくさんある。東京ドームとか、たしか大きめの紙コップに注がれたビール一杯千円近くしたような気がするし。ポップコーンワゴンの一日の売上げは人気のあるワゴンだと300万円くらいに達するという話を聞いたことがあるが、ディズニーランドって最初に買うパスポートの料金だけで、他に料金の発生しないサービスの方が多い。アトラクションやショーはもちろん、清掃やアトラクションの整備など、直接ゲストから料金を貰うわけではない裏方の仕事の方がむしろ多い。そういった人々の給料だってまかなわなければいけないし、アトラクションのメンテナンスだって、毎日金がかかっているわけだし、円滑にパークを運営するための設備投資も常に行っている。目に見えない部分での経費を、パスポート以外の食堂施設や商品施設で回収しなければいけないのだ。そう考えると、ポップコーンワゴン一台の収入がバックステージなどで働いている何百人、何千人という人たちの食いブチを稼いでいるわけだ。しかも、従業員の給料だけでなく、オリエンタルランドアメリカのディズニーにロイヤリティフィーも払わなければならない。JR西日本列車事故を例に挙げるまでもなく、何か事故が起きたら事業主が補償しなければいけない。実際、ディズニーに対する期待が大きければ大きいほど、それが満たされなかった時のクレームは他の事業よりも多くなる。どう考えてもリスクが高すぎる事業を、よく今まで黒字で通してきたなと思う。まあ、その辺もいろいろとドス黒い工作があってのことだろうけど。そろそろ限界がきていても仕方ないと思うし、ここから立ち直れたなら、それはそれでやっぱりスゴイことだと思う。高橋氏亡き後、個人的な興味は薄れつつあるけど、没落にしろ再起するにしろ、やっぱりこの先どうなっていくのかって部分は非常に気になるところです。